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長野県千曲市にある稲荷山宿は、戦国末期の稲荷山城築城をきっかけに城下町として誕生し、江戸時代に入り善光寺街道の宿場町として発展、さらに江戸末期以降は生糸や繊維製品を扱う県内随一の商都となりました。明治中期の鉄道開通とともに徐々に衰退しましたが、現在は文化庁の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
保存地区の範囲としては東西約200メートル、南北約850メートルで、建造物としては200軒弱ほどが登録されています。町の中央に善光寺街道が南北に通り、真ん中がクランク状に屈曲。現存する建物は1847年の善光寺地震による市街地全焼後の中二階、そして明治中期以降の本二階の重厚な主屋、その背後の土蔵、さらに一方で茅葺きの建物と、多様な建築物が混在するのが特徴。
目次
稲荷山の歴史
稲荷山城下町に端を発する宿場町
稲荷山の町は1582年に上杉景勝が稲荷山城を築城(現在は千曲川の氾濫などでその痕跡はない)して町が形成されたたことで始まり、廃城後の慶長年間(1596~1615)に宿場町になりました。
1614年には中山道の洗馬宿(塩尻市)から長野の善光寺に向かう北国西街道(善光寺街道)の正式な宿場となり賑わい、十返舎一九も「稲荷山弥次喜多道中」で描いたほど。
地震で全焼するも県下随一の商都に
19世紀初頭以降は日用品や太物を扱う商家も増えて、商家町の性格も持つようになりましたが、1847年の善光寺地震とそれに伴う火災で市街地はほぼ全焼。8年経過しても復興はままなりませんでしたが、その10年後の検地絵図には現在の区名に近い町名が見られるまでには復興したようです。
明治期になると、信州南北を結ぶ生糸や繊維製品の集積地となり繁栄し、長野県随一の商都に成長。現在長野県を代表する八十二銀行の前身の第六十三国立銀行は当時松代に本店がありましたが、1891年の松代大火が理由とはいえ、稲荷山町に本店を移すほど商都としての存在感がありました。
明治11年建築の 元第六十三国立銀行稲荷山本店
第六十三国立銀行は現在の八十二銀行(長野県トップ)の前身
鉄道開通に伴い衰退、「蔵の町」として再生
大正から昭和初期も不況の中、メリヤス(現在のニット)産業で活気づく「メリヤスの町」に。一方、明治中期以降は鉄道輸送の役割が増加して商家町としての地位は低下し、稲荷山駅も離れた場所に設置されたこともあり町は衰退。
一方で、そのおかげで現在も当時の面影がよく残り、1847年の善光寺地震のあとに建てられた土蔵群がいまでも多く見られます。さらに、千曲市の「蔵の町」として街づくりを進めた結果、2014年に文化庁の重要伝統的建造物群保存地区として選定されました。
極楽寺参道脇の土蔵群
おもな伝統的建造物(写真)
極楽寺参道脇の土蔵群
極楽寺参道脇の土蔵群
たまち蔵道の土蔵群(石垣の上に下見板は風雨の侵入を防いでいる)
仲町の旧醸造蔵(折れ曲がった善光寺街道角地の薬屋)
仲町の旧醸造蔵(折れ曲がった善光寺街道角地の麹屋)
元呉服商「山丹」:県下屈指の呉服反物商で8つの蔵が完全に残る
(写真左の水路は稲荷山城の堀跡と考えられている)
「カネヤマ松源製糸」松林邸を修復した公開施設 稲荷山宿蔵し館
「カネヤマ松源製糸」 は幕末から明治期の生糸輸出業
なまこ壁の土蔵が連なる荒町の土蔵群
アクセス
- しなの鉄道屋代駅より稲荷山交差点(保存地区南部)まで2.2km
- 屋代駅からは路線バスも出ていて、北から「稲荷山荒町」、「長雲寺入口」、「稲荷山郵便局、「本八日町」、「上八日町」のどのバス停で降りても、旧善光寺街道の稲荷山保存地区内になります。
- 下記3路線を全部合わせると、午前中は9時台以外は毎時2~3本、午後は12時台以外は毎時1~2本あることになります♪
- ②ちくま号 大循環線(西回り) ➡ 屋代駅発 8:15, 10:15, 11:40, 14:05, 15:50など
- ⑤めいげつ号 姥捨て線 ➡ 屋代駅発 8:07, 10:00, 16:25など
- ⑥やまぶき号 大田原線 ➡ 屋代駅発 8:17, 11:20, 13:46, 16:36など
- 屋代駅が千曲市の代表駅なので、稲荷山までの道にも飲食店、コンビニ、市役所などあります
- JR篠ノ井線稲荷山駅より稲荷山荒町交差点(保存地区北部)まで1.8km
- 上信越自動車道更埴IC、または長野自動車道姨捨SAより車で10分
千曲橋(向こう側が稲荷山、手前が屋代駅側)
千曲橋(向こう側が屋代駅、手前が稲荷山側)
しなの鉄道の屋代駅(長野駅から20分)
屋代駅前をまっすぐ千曲橋に向かう国道403号線
関連・参考サイト
- 信州千曲観光局
- 千曲市通年パンフレット(8ページに稲荷山)
- しなの鉄道時刻表(軽井沢~長野、長野~妙高高原)
訪問後記
- いわゆる「町並み」として伝統的建造物が連続的に続いている部分は少なく、むしろ町の中から部分的であるけれどそれぞれ個性がある多様な空間を見つけながら歩くのを楽しむという感じの町です(公開している伝統的建造物は蔵し館のみ)
- 飲食店などは多くありませんが、千曲川を渡った屋代駅方面が千曲市の中心地ですので、行きか帰りにそちらに立ち寄れば問題ないと思います
- 長野(稲荷山駅まで篠ノ井線16分)、松本(稲荷山駅まで篠ノ井線55分)、上田(屋代駅までしなの鉄道22分)などからは半日~日帰りで見て回ることができます
- 近くには日本三大車窓の姨捨駅があり、千曲市や長野市がある善光寺平を一望できるので、稲荷山とセットで訪問するのもよいかもしれません